経済産業省
平成23年度 医療・介護周辺サービス産業創出調査事業
「後見・信託事業に関する検討」調査
「判断能力が不十分である高齢者等に代わって、本人(被後見人等)にとって必要で十分な医療・介護・生活・娯楽等サービスを適切に選択し、本人の財産から当該費用を支払うことを可能にするための基盤整備の一つとして、成年後見と民事信託を活用した社会事業の創造を目指す。
成年後見と民事信託のパイロット事業を立ち上げ、成年後見と民事信託の啓発を行うだけではなく、業務として利用支援・受任・受託を行うなかで、社会事業化にあたっての運営上の課題や制度上の課題の抽出をはかる。また既に運営がなされている後見法人を調査し、成年後見の事業の現状把握と各法人が抱えている課題を浮き彫りにする。
後見実務に当たっては、従来のように本人の財産を静的に管理するだけではなく、医療介護、生活、旅行、その他の手配・支払(身上監護)に重きを置く動的な管理もしくは積極的な消費(本人の希望をかなえることによって、その生活をより豊かにしていくための消費・管理)の実現をはかる。
また、上記事業によって明確となった制度上の課題について、分析・整理し、規制緩和や新ガイドライン策定についての提言を行う。
加えて、成年後見と民事信託の社会事業化による社会・経済への影響についても検証を進め、成年後見と民事信託の社会インフラ化の必要性・緊急性の実証をはかる。
認知症等で判断能力が不十分になると、医療生活サービスの中から自分に必要なものを選ぶことやその契約締結を行うことなどが難しくなってしまう。国立社会保障・人口問題研究所の推計(平成14 年1 月推計)によれば、平成22 年に10.8%だった後期高齢者(75歳以上)の人口割合は、平成37 年(2025 年)には16.7%(約2000 万人)になると予測されており、約65%も増加する。加えて認知症患者数も増加し、2020 年には325 万人まで増加すると予測されている(下方浩史.我が国の疫学統計.日本臨床 増刊号 痴呆症学3 2004;62 増刊号4:121-125)。
このように高齢化が急速に進展している日本において、増加する高齢者等が認知症等の理由によりサービスをうまく購入することができなくなってしまうと、医療生活サービス提供者もこれらの人達に、需要があるにもかかわらず、必要なサービスを適切に供給することが難しくなってしまう。結果として後期高齢者等はサービスによるQOL の向上の機会を失し、サービス提供業者は事業機会を逸することになる。この状況を放置することは、4 人に1 人以上が65 歳以上であるという状態が普通になる今後の日本において、著しい社会の沈滞と経済活動の停滞を招くことになる。
このような状況に陥ることを回避するためには、情報不足になりやすい後期高齢者や認知症高齢者と医療・介護・生活サービスとを確実につなげることを可能にする方策が必要となる。そのための有力な方策として、購入者側に合理的な代理を付す成年後見や民事信託という仕組みをあげることができる。しかし、いずれの制度もあまり一般には知られておらず、利用実績も少ない現状である。
本コンソーシアムの一画を担う東京大学は、平成22 年度経済産業省の医療・介護周辺サービス産業創出調査事業において、「後見・信託事業に関する検討」調査を実施した。成年後見制度と福祉信託制度及びその周辺領域のサービス化・事業化に関する調査であり、不動産・金融・介護業界に対象を絞り、アンケートを行った。これにより、成年後見制度自体に対するニーズの高まりや日常生活支援サービスなどの周辺事業のニーズ、金融機関をはじめとする事業者の後見全般に関する業務方針策定支援ニーズ等の存在が明らかとなった。また東京大学は、自主事業として平成23 年9 月より市民後見人養成講座(約650名)を開講し後見の担い手の養成を行うともに、東京大学政策ビジョン研究センター 市民後見研究実証プロジェクト内に市民後見活動支援室を設け、①市民後見法人の立ち上げ支援 ②後見を要する人と市民後見グループの関係づくり ③市民後見活動に伴う損害賠償責任保険の紹介 ④成年後見実務フォローアップ研修 ⑤成年後見や付帯する事項に関する専門的助言指導 ⑥市民後見や成年後見に関する各種情報提供 その他の活動を行い、成年後見制度の啓発と普及に取り組んでいる。
上記のようなバックボーンをもって、成年後見及び民事信託を活用した社会事業の可能性・将来性を探求することは、世界の中でも突出した高齢化社会を迎える日本にとって、国民のQOL という観点からも、社会・経済面からも不可欠なことであると考えられる。加えて日本は、高齢化社会の到来により、十分な気力・体力と豊富な経験をもったシルバー人材の大量供給という事態にも直面している。本コンソーシアムは、こういった人材の成年後見事業における活用も視野に入れる。
平成23年8月9日~平成24年2月28日